佳き日に
「琴、あのパン屋のところでやれ。タイミングはこっちで合わせる。」
「分かった。」
琴は指示された通りに、柳琥珀の後を歩く。
パン屋まであと数m。
5、4、3、2、1。
トンッと彼女の手を道路側に弾くような感じにぶつかる。
「あ、すいません。」
「あ、いえ。」
機械的な言葉を話し、琴はスタスタとその場から離れる。
あとは、あらかじめ指示された場所に行き、雪と閏と合流するだけだ。
後方から柳琥珀が発したであろう叫び声が聞こえた。
ここは車の通りが多いから、雪たちの乗っている車以外も何台か携帯を轢いただろう。
見た所柳琥珀の携帯は新しいものだった。
運がないな、と思ったとき、どこからか視線を感じた。
反射的に顔を上げた琴は、一人の女性と目が合った。
黒髪の、40代後半くらいの女性。
とても驚いた表情をしていた。
おそらく、琴が柳琥珀の携帯を叩き落とした場面を見ていたのだろう。
説教されんのもめんどーだな、と琴は思い、急いでその場を後にした。