佳き日に
夏に比べてずいぶんと涼しくなってきた道を歩く。
昼頃だからか、OLさんやサラリーマンがちらほらと見受けられる。
エナカは周りの風景を見ながら歩いていたら、遠くに見知った顔が見えた。
「琥珀?」
なぜ彼女がこんな時間にこんな場所にいるのか。
エナカは思わず足を止めた。
だが、どうせ彼女のことだから学校をサボったのだろう。
こちらの方向に歩いてきているので、エナカの家に遊びにいくつもりなのか。
エナカはそこまで考え、ふっと笑みをこぼす。
何が楽しくてこんな中年のおばさんの家に遊びにくるのだろうか。
物好きな女子高生もいたものだ。
「あ、すいません。」
「あ、いえ。」
琥珀の声が聞こえた。
誰かとぶつかったのだろうか。
状況を見てみようと顔を上げたエナカは、一人の少年に釘付けになった。
いや、顔立ちから見るに少年ではなく青年。
栗色の髪に、少しつり上がった目、挑発的な雰囲気。
琥珀とぶつかったのはこの青年だろう。
少し間が空き、琥珀の叫び声が聞こえた。
さっきこの青年とぶつかった時、携帯を落としているのを見た。
恐らく、壊れてしまったのだろう。
黒いフードをかぶったこの青年はわざと琥珀にぶつかったのか。
ヒドい人だ。
だが、問題はそこじゃない。
もう一生見ることはないと思ったのに。
頭がガンガンと痛む。
ビー玉のような茶色い目。
雨と同じ目。
選ばれなかった、者たちの目。
どうして、と口にはでなかった言葉がエナカの胸に落ちていった。