愛は満ちる月のように
予想外の美月の返事に、悠は慌てて携帯を取り上げた。


「那智さん、なんで勝手に人の嫁さんを誘ってるんですかっ!?」

『なんだ、不良亭主も一緒にいたのか。それは残念』


残念と言いつつ声が笑っている。

どうやら最初に、悠は一緒にいるのか、と尋ねたようだ。


『離婚するなら後釜に名乗りを挙げようと思ったんだが……』

「……とにかく、美月の面倒は僕がみますから、せっかくですが」

『今日は夜の営業は休みにして、従業員全員で花見なんだ。酒もあるけど……料理も充分にある。暁月城の去年と同じ場所だ。外国暮らしが長いなら、たまにはこういったのもいいんじゃないか?』


そう言えば、最初に『十六夜』から歩いて帰ろうとしたのも、桜が見たかったのだろう。酔っ払いの一団に絡まれ機嫌は悪かったが……。

思えば、ボストンでも美月にせがまれチャールズ川沿いの桜を見に行った。

ただ眺めながら歩くだけだったが、本当に楽しそうだったのを思い出す。


「――わかりました。少し時間がかかるかも知れませんが」

『なんだ。ひょっとして“最中”だったのか? それは悪かった』


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