愛は満ちる月のように
「違います! 裏のラッキータウンに買い物ですよ。荷物をマンションに置いてから行きますので……」


完全にからかわれているようだ。

携帯を切り、美月に返す。


「お花見には行くことにしたの?」

「君をひとりではやれないだろう?」

「あら、那智さんがいれば平気よ。お店の人たちも親切そうな人ばかりだったわ」

「……それが問題なんだ」


美月は可笑しそうにクスクス笑っている。


悠が慌てて携帯を取り上げ、那智と話しているのがよほど面白かったらしい。


(今夜は誰が亭主か、きっちりと教え込んでやる!)


そう思ったとき、悠の心に得体の知れない何かが広がった。


――離婚するなら……。


(ああ、そうだ。僕たちは離婚するんだ。これは、束の間の夫婦ごっこに過ぎないのに……何を考えてるんだ)


ふいに、笑顔で前を歩く美月が眩しくて……彼は目を伏せた。


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