愛は満ちる月のように

(3)男の本音

桜フェスティバルの会場から暁月城まで、徒歩で約十分。当然、悠のマンションから歩いて行けない距離ではなかったが、タクシーを使った。

国宝暁月城、国内で唯一、個人所有の城だという。

外堀を回り、夕日川とは反対側の入り口でタクシーを降り、悠は美月と共に城門に向かって歩く。

堀の周囲は公園として綺麗に整備され、桜の数は多くないが、バーベキューなどを楽しむ花見客がたくさんいた。

その桜の中に見事なしだれ桜を見つけ、美月は嬉しそうな声を上げ、近寄って眺めている。


(休暇を取り、妻とお城に花見か……とても自分のこととは思えない)


この間の少々不恰好なスーツ姿と違い、今日の美月は身体のラインが綺麗に浮かび上がっている。

それは、ついさっき購入したばかりの、カシュクールワンピースに着替えたせいだ。七分袖で色はロイヤルブルー、スカート部分のドレープが美しく波打つジャージィ素材だった。

肌の露出が大きい訳でもないのに、ひどく扇情的に思える。中身の豊かさが容易に想像できてしまう胸元も、思わず手を添えたくなるヒップのラインも、すれ違う男の視線から覆い隠したくてならない。

悠は思わず……。


「美月ちゃん、花冷えの時期にそれじゃ寒くないかい? 上着を貸そうか?」


我ながら、情けないと感じつつ、尋ねてしまう。


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