愛は満ちる月のように

(8)散りゆく桜

ふたりが回転寿司の店を出るころには、閉店時間ギリギリになっていた。


片側二車線の道路沿い、街路樹に桜の木はなかったが、どこかから飛んできたのだろう。悠は目の前を歩く美月の髪にピンクの欠片を見つけ、手を伸ばした。


「え? 何?」


髪に触られたことにビックリした様子で、美月は振り返る。


「桜だ。昼間、髪についた訳はないから、風で飛ばされてきたんだろう」

「だったら、さっきのお店ね。私、ユウさんより先に出たでしょう? 駐車場の奥に桜があって、近づいて見ていたの。きっとそのときだわ」


悠の指先から花びらを受け取り、美月はふうっと息を吹きつけ、宙に放った。


「君は好きだな、桜が」


その声は自分で思った以上に寂しげに響き、辺りに広がった。

だが、美月はそんなことなど気にしない素振りで、「ええ、好きよ」と笑って答える。


「僕は嫌いだ。目障りだよ。毎年、この時期になれば、誰も彼もが『桜、桜』と。梅や桃でもいいじゃないか……ハナミズキだって変わりはしない。どうせ、花見の名目で騒ぎたいだけなんだから」


口にするうちに苛立ちが増し、どんどん辛辣な口調になる。


(いったい、何をむきになってるんだ……)


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