愛は満ちる月のように
「お姉さん! 美月姉さん。僕です……覚えてませんか?」


玄関の扉を開けるなり、飛び込んできた少年が叫んだ。

中学一年生と言われたら、それでも納得してしまいそうなほど小柄な少年だった。


「こ……たろう? 小太郎なの? 嘘……どうして? どうやってここまで来たの!?」


悠の背後で美月が震えるような声で答える。それもそうだろう、姉弟は実に八年ぶりの再会だ。

小太郎は誘拐された過去から、今でも閉所恐怖症だった。とくに乗り物が苦手で飛行機だけでなく電車も乗れない。乗用車は短時間ならどうにか耐えられるが、長時間は無理だった。

その小太郎が東京からO市までどうやって来たのか、美月は不思議そうに何度も訪ねている。


「真さんに連れてきてもらった。……バイクで」

「バイクって……本当なのか? いったい何時間かけたんだ!?」


悠のほうが驚いて声を上げる。

当の真は、


「随分前にこの近くまで来たときは、九時間もかからなかったんだ。でも、今回タンデムで小太郎は初バイクだし……休憩取りながら来たら倍もかかっちゃって」


かつての悠に似た邪気のない顔で笑った。


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