愛は満ちる月のように
「主人のお知り合いかしら。でしたら、彼と直接お話になったほうがよろしいわ。私が聞いてもお答えできませんので……。失礼」


できる限り平静を装い、美月はその女性から離れようとした。

そのとき、沙紀が小学校中学年くらいの子供の姿を目で追いながら、ポツリと言った。


「私にも、ちょうどあの子たちくらいの子供がいたはずなの」

「……そうですか。連れがおりますので……」

「悠が泣いて堕ろして欲しいって頼むから、言うとおりにしてあげたのに。そのあとは、一条家のお金の力で私のことを追い払ったのよ。ホント、冷酷なところまで父にそっくりだわ」


およそ、頭の回転が鈍いほうではない美月だが、さすがの彼女にも沙紀の言葉の意味がわかりかねた。

だが、悠の過去を知る女性なのは確かで、それは美月にとって不愉快極まりない話のようだ。


「それがどうかなさって? 妻である私が聞くべきことかしら? 過去のことなら関係はないし、過去でないなら……発言は充分に気をつけたほうがよろしいわ」


同業者すら声を失う冷ややかな言葉と視線。美月の美貌は鋭い刃物のように沙紀の口舌を斬り捨てた。

普通の女性であれば、そのまま立ち去るはずだ。

そう……普通の女性なら……。


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