愛は満ちる月のように

(4)縁談

まさか、遠藤沙紀が美月に会っているとは思いもせず……。

悠はそのころ、大阪市まで来ていた。



出社してすぐ、社長――叔父の一条匡(ただし)から呼び出しを受けたのだ。


「それは……電話では済まないことなのか?」


秘書の戸田順平にそう問いかける。

東京まで行けば日帰りでは済まない。今、とくに今日はO市から離れたくなかった。真や小太郎が来ている、ということもある。だがそれ以上に、美月と過ごせる限られた時間を失うのが辛い。


「社長は本日、大阪支社に顔を出されるそうです。本部長にも支社ビルまで来て欲しいとのことでした」


戸田は社長命令を淡々と口にする。

御堂筋沿いにある大阪支社ビルなら駅からもそう遠くはない。用件が込み入ったものでなければ、おそらく夕方までには戻れるだろう。


「わかった。明日からもう六日間休暇を取らせてもらう。いいように手配してくれ」

「さらに、ですか? あの……」

「これ以上の延長はしない。支社長や副本部長には私からも声をかけておく」

「……承知いたしました」


戸田は何か言いたそうだったが、口を閉じた。


六日後には満月がくる。

そうなれば、美月は離婚届けにサインをして、ボストンに帰るだろう。そのあと、真が美月を追おうと、ふたりが結婚しようと、悠が口を挟むことではない。

もうすぐ、美月を守る義務はなくなる……。


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