愛は満ちる月のように
「DNA鑑定は?」


美月は当然のように質問するが、


「今から四十年ほど前の話なんだ。当時は血液鑑定が主流だったらしい。でも、それ以前に決着がついたので、鑑定は不要だった……そのときはね」

「それなら問題ないじゃない」


たしかに問題はない。様々な状況を知った今の悠なら、そう思えるだろう。


「十一年前、僕は父が再婚であることだけ知らされていた。その状況で、彼女が父の嫡子と認められた戸籍謄本を見せられたんだ――」


女性は五歳も年上で実家は地方に住む低所得者層だった。

若さの勢いで結婚したものの、父は妻を置いて渡米してしまう。残された妻は一条の権力に押し切られるように、離婚を強制された。

沙紀親子は父に捨てられた被害者である、と。


沙紀はそのとき、悠に“嫡出否認”を受けている事実を話さなかった。

そして言った言葉は――


『私は血の繋がった姉よ。あなたは実の姉とセックスしたの。それだけじゃないわ……私のお腹にはあなたの子供がいる。これって誰に相談したらいいのかしら? 私たちのお父さん? それとも、あなたのお母様がいい?』


色あせた戸籍謄本の上に置かれた妊娠証明書を見たとき、悠は人生に取り返しのつかない過ちがあることを知った。 


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