愛は満ちる月のように
「立ったままで済む用件なら手早くお願いしていいかしら? 長くなるようならソファにかけてくださって結構よ。飲み物は私が持ってくるわ」


ドアの前に立ったままの悠に話しかけながら、ソファを指差した。

黒いジャンパースカートのウエストはゆったりとしたデザインだ。後ろのリボンで調整すると、いくらでもゆったりとさせられる仕組みになっている。


悠は決して鈍いタイプの男性ではない。


それでも、無駄な抵抗は承知で……美月は胸の下辺りで腕組みして立った。



「美月……女性にこういった質問をするのは不適切だとは思うんだが……少し、ふくよかになったんじゃないか?」


悠は茫然としたまま、彼女のウエストを睨んでいる。


(ああ……そうよね。でも……今までのことを考えたら、悠さんに知られることはないと思っていたのに……)


美月はボストンに戻った直後、ピルの服用をやめた。

失恋のショックを癒やすために子供を作るのは間違っている。第一、自分が欲しかったのは悠の子供だと気づいたせいもあった。

精子バンクには、離婚が成立するまでの間に考え直したい、とキャンセルを申し入れた。

本来、すぐにくるはずのものがなかったことも、ピルの影響と深く考えていなかったのだが……。

体調不良が続いて受診したところ、美月は思いがけず神さまの贈り物を授かっていた。


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