女王様のため息


「え、出世頭、なんだ?」

奈々ちゃんは、何の事だかわからないような声で私を見た。

色白で透けるような肌は同い年とは思えないほどきれいで、『お姫様』と呼ばれるにふさわしい外見をじっと見返しながら。

「出世も出世。同期の中で唯一の課長職に就いてるでしょ?
設計部門で採用されてるから、本社の設計部に配属されるんだろうと思ってたのに本社工場に行ってしまって、どうしてるかと思ってたら。
そっか、奈々ちゃんを口説いてたのか」

最後はくすりと笑い声になっていたけど、驚いた私の気持ちはそのまま奈々ちゃんに伝わったようで、

「えっと……そうだね。課長は課長だね。結構部下も多いしエラそうに仕事してるし、でも楽しそうだけど。……口説いてたってのも、正解かな」

淡々とゆっくり考えながら教えてくれた。

人見知りをする性格のせいか、軽快なテンポには不慣れな彼女。

でも、ゆっくりと考えをまとめる時間があれば、誠実に嘘をつかずに何でも答えてくれる。

仕事でも、プライベートでも。信じられる人。

だからきっと。

「へえ、やっぱり口説いてたんだね。お姫様を口説き落とした王子様は、奈々ちゃんを王妃様に格上げしてくれるんだ。いいなあ」

今目の前にある奈々ちゃんの幸せそうな表情が語る現状は、そのまま

『幸せ』

なんだろうと思えた。

きっと、社内で胸を痛める男たちの数は相当なものだろうな。








































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