女王様のため息


ふふふ、と笑って、奈々ちゃんの顔を覗き込むと、真っ赤に頬を染めた顔を恥ずかしげに俯かせた。

可愛いな。

「王妃様っていうか……王様のお世話をするメイドみたいな感じかな」

たどたどしく話す声も恥ずかしげだけど、その声の中には幸せな空気も感じられて、ほのぼのとしてくる。

それにしても。

「メイドって、何だか甘いイメージだね。え?そんなに可愛がられてるの?
メイド服とか着せられて、『ご主人様』とか?あ、奈々ちゃん似合いそうだね」

「は?ご主人様……?え、違うよ違う。遠距離だったから、週末彼の家に行って、掃除、洗濯をしてご飯を作って……メイドというより家政婦?」

苦笑しながらの奈々ちゃんも、やっぱりかわいいし嬉しそうで、いそいそと恋人の為に家事をこなす姿が目に浮かんでくる。

「でも、奈々ちゃん幸せそうだね。良かったね。同期同士の結婚なんて初めてなんだから、派手にお祝いしなきゃね。あ、今日みんなに連絡回しとくよ」

女王様に任せなさい、と私が明るく言うと、遠慮がちな瞳を一瞬私に向けて、でもやっぱり嬉しいのか

「ありがとう……彼にも伝えるね。本社の同期となかなか会えなくて寂しがってるし喜ぶよ」

その声は弾んでいた。

総務部の私と経理部の奈々ちゃんは、スタッフ部門に配属された同期として親しくしてきた。

『女王様』『お姫様』というわずらわしい呼び名をありがたくもちょうだいして、周囲から比べられた事もあった。

その度に下される結論は、強気な私と弱気な奈々ちゃん。

どちらかというと顔立ちがはっきりしていて、正確もサバサバしている私だから、強気だと言われることには慣れているけれど、見た目の儚さだけで奈々ちゃんを弱気だと結論付けるのは間違っていると何度も苦笑した。

『だましてるつもりはないんだけどな』

学生時代からそうだったと、肩をすくめる奈々ちゃんの逞しさをこれまで目の当たりにしていた私は、さっき奈々ちゃんがこぼした言葉が気になった。

これからの自分が抱えるかもしれない大きな問題でもあるそれ。

「遠距離って、大変?」






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