女王様のため息
何気なさを装いながら、そっと窺うように聞いてみた。
奈々ちゃんが口にした遠距離という言葉に反応して、私の心はざわついている。
本社と本社工場は、離れているとはいえ、車で二時間ほどの距離だから、遠距離と言うほどに遠いイメージはないんだけど。
とはいえ奈々ちゃんが経験している遠距離恋愛が、他人事ではなくて、すごく気になる。
株主総会が終われば、私と司だって遠距離恋愛が始まるかもしれない。
司は一緒に暮らすと言っているけれど、司にも司の大切な仕事があるから、その言葉に簡単に甘えていいものか、悩んでいる。
奈々ちゃん達は、どうやって付き合いを続けていたんだろう。
週末ごとに通っていたのかな。
毎週となると二人とも大変だけど、やっぱり愛があれば、乗り切れるのかなあ。
色々聞きたい事が浮かんでくるけど、どこまで突っ込んで聞いていいのか考えていると。
「もしかして、同期内結婚二組目は真珠と司くん?」
「え?」
しばらく何かを考え込んでいた奈々ちゃんは、ふふっと笑って呟いた。
一応疑問形で聞いてくれているのに、確信に満ちたその明るい表情はどうしてだろうと、どきっとした。
もしかしたら、もう社内にばれているんだろうか?
司とつきあい始めた事や、私の異動の話が噂になってるのかな。
「今まで真珠って恋愛がらみの話に興味ないって感じで、こっちが話をすれば聞いてくれるけど、自分からわざわざ聞いてくる事なんてなかったもん。
……ビンゴ?ふふっ。……で、司くんってどこに異動になるの?
7月の組織改編で?」
「あ、いや、その……、司は違うっていうか」
今思い出した、奈々ちゃんは勘が良かったんだった。
仕事でも覚えが早くて段取りも良くて、すぐに身に着けるから経理部長のお気に入りだと聞いた事もあったっけ。
「司くんは違うっていうのは、真珠の恋人が司くんじゃないって事?それとも、異動が司くんじゃないって事?」
「……」
にんまりと笑いながら、手元にあったコーヒーを飲む奈々ちゃんはどこか楽しそうに見えるし、自信さえ感じられて。
「……異動」
ごまかせないと感じた私は、大きくため息を吐きながら、そう呟いた。