女王様のため息
「美香にも軌道修正をして、幸せになる権利があるんだから、俺の事は気にせずに、ちゃんと春岡さんと幸せになれよ。
俺はもう、幸せに向かって加速中。
これ以上真珠から離れているつもりもないから、安心しろ」
ああ、何となくわかった。
美香さんが今日ここにいる理由も、どうしてやけに明るい様子だったのかも、そして急に悲しそうに口数が減ったのかも、わかった気がする。
美香さんが笑顔の裏に抱えているのはきっと、司と私への罪悪感と後ろめたさだ。
美香さんが恋人と別れてからずっと、彼女の事を気にかけた司が側にいてくれた事への感謝はもちろんあるだろうけれど、結局は司の事を束縛していただけで、二人とも本当の恋人同士へと関係をすすめる事はできなかったと聞いている。
それでも寂しいという理由で司を手放さなかった間、司が私に向けていた想いに気づいていたはずで。
手放さなければいけない理性と、簡単にそれができない寂しさとの狭間で、きっとつらかったんだろう。
「司、私は、大丈夫だからね」
春岡さんに抱き寄せられたまま、ゆっくりと視線を司に向けて呟く美香さんの言葉がその裏付けとなる。
「わかってるよ。春岡さんと一緒にいる美香を見てたら、幸せだとすぐにわかって羨ましくなるし、俺は無性に真珠に会いたくなるんだ。
美香が幸せで、俺は用無しだって、これほどわかりやすいものはないだろ」
ちょうど信号が赤に変わって、ゆっくりと車が停まった。
司は後部席に体を向けると
「それに、春岡さんには申し訳ないけど、俺にとっても美香は大切な存在なんだ。一生つきあっていきたい友達だから、その友達を心配するのは当たり前だから。当たり前の事をしていた俺に引け目を感じる事はない。な、美香」
「うん……。ありがと。司くん」
「くくっ。気づいてたか?俺の事はずっと『司くん』ってくん付けだったけど、春岡さんの事は呼び捨てだったんだぞ。
最初から、美香の気持ちが向かってたのは春岡さんだ」
「あ……そう、だね」
からかうような気安い口調の司につられるように、美香さんの口元も微かに緩んで笑みも浮かんだ。
照れたように春岡さんに視線を向ける美香さんは、今日見た中で一番きれいだった。