女王様のため息
せっかく相模さんが声をかけてくれたんだから急いで行きなさいと言ってくれる総務部のみんなからの声に甘えて、リハーサルの片づけから早めに抜けさせてもらった。
財布と携帯を机から取り出して一階に下りると、既に相模さんはロビーに来ていて、受付の貴和子と和やかに話していた。
なんだか慣れたようなお互いの視線と、二人の親しげな空気感に少しためらいながらも近寄ると、先に私に気づいたのは貴和子で。
「あ、来た来た。天下の相模さんを待たせるなんて、真珠もなかなかやるわね」
ふふっと笑いながらの声は、どこか弾んでいて、相模さんとの会話がかなり楽しかったんだろうとわかる。
「お待たせしてすみません」
軽く頭を下げると、
「そんなに待ってないよ。それより、上の片づけは終わったのか?」
「あ、総務部のメンバーが引き受けてくれたんで、大丈夫です」
「そうか、悪かったな。明日の総会に備えて忙しいのに申し訳ない」
「いえ、いいんです。総会の準備は既に終わってるので、後は明日何もない事を願うのみです」
「そうだな。ま、明日はとうとう俺が会社に縛られてしまう記念日だな」
そう言って苦笑すると、相模さんは貴和子に軽く笑いかけたあと歩き出した。
その背中を慌てて追いながら、ほんの少しの不安のせいで貴和子を振り返ると、貴和子は大きく笑いながら『行ってらっしゃい』と言って手を振っていた。