女王様のため息
相模さんが連れてきてくれたのは、会社の近くにあるビルの地下。
どこか隠れ家的な和食のお店は、大通りから一本裏手に入っているせいか、お昼休みなのにほどよくすいていて。
「あ、相模さんいらっしゃい。今日は京都から新鮮なお野菜が入ってるんですよ」
「あ、ついてるな。適当に作ってくれよ」
よく来ているのか、カウンターの向こうからかけられた声に軽く答えると、相模さんは慣れたようにお店の奥に私を促した。
「雰囲気のいいお店ですね」
向かい合って座ると、どこか温かいダークブラウンの色合いにほっとした。
それほど広い店内ではないけれど、すっきりと配置されているレイアウトは好感が持てる。
ところどころにほどこされている腰壁もバランスがよくて、地下にあるだけに窓がない分アクセントになっているのも計算されているのだろうか。
きょろきょろと初めて見るあらゆるものに視線を泳がせていると。
「いつもおまかせなんだけど、真珠さんもそれで良かった?」
「あ、はい、好き嫌いはないので大丈夫です」
「そっか、司と一緒だな。あいつもなんでも食べるからいいんだけど、エンドレスで食べ続けるから急いでる時は面倒なんだよな」
思い出したように笑う相模さんは、本当に司の事をかわいがっているようで、目を細めて嬉しそうに話している。
まだまだ現役で頑張っている相模さんの後継者と言われる事に、抵抗はないのかといつも気になっているけれど、そんな事を加えたとしても、司の事をかってくれているようで、少し安心した。
出された温かいお茶を飲んでいると、ふと手元に差し出された一枚の紙。
「え?なんですか?」
相模さんに視線を向けながら、それを手に取ると。
「あの……『お願い』って一体……?」
かわいい水玉模様の淡いピンクの便箋には。
『お願いします。神田暁さんの演奏を聴かせて下さい』
綺麗だけれど、子供が書いたとわかる文字が並んでいた。