女王様のため息


わが社の株式を保有している個人株主の中にはわが社の社員も含まれていて、有給をとって株主総会に出席している。

「有給をとられているんですよね?このまま帰るんですか?」

「まあ、帰ろうと思えば帰れるんだけどな……」

少しためらいがちの声に違和感を感じて、部長の顔をじっと見つめていると。

「いや、これは俺からじゃない方がいいか」

ため息ともいえるような小さな息を吐いて、部長は頷いた。

「真珠さんとは、そのうちゆっくりと話す機会もあるだろうし、その時にな。
今日は総会の打ち上げだろ?」

その場の空気を変えるような明るい声に、ますます戸惑うけれど、そんな私の様子に気づかないように部長は笑う。

「はい……定時あがりで打ち上げです。今年は『すき焼き』だって聞いてます」

「そうか。まあ、今日くらいは仕事から離れて楽しんでこい」

「は、はい……」

じゃ、お疲れ様、と言った部長は近くにいた社員に声をかけながらその場をあとにした。

最後に何か言いかけた様子が気になるけれど、株主総会がようやく終わって、私の異動についてつめようとしていたのかもしれないな。

7月に控えている大きな組織変更を前に、部長も私の事だけに関わっていられないだろうし。

研修部が東エリアと西エリアに分かれるとなると、研修部のトップである部長だって大きな変化を受けるに違いない。

たとえ自分に異動がないにしても、新しい体制が整うまでは心身ともに落ち着かない日々が続くはずだ。

私がどうにか落ち着いていられるのも、株主総会が終わって、異動の辞令が出るまでのほんのわずかの日々だなと気づいた途端。

「ふうっ」

思わずため息が出てしまうのを止められなかった。



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