女王様のため息
「司、痛いんだけど……」
私を抱きしめる司の手の力は緩む事もなく、押し付けられた胸の向こう側からは司の鼓動がとくんとくんと聞こえてくる。
特に速くもないその音に、意外に平静なんだなと思いつつ、それならちょっとは落ち着いて話し合おうよ、とも。
私は司の背中に両手を回して、暴れるようにその背中をたたいた。
「司、痛いから離してよ。怒ってるだけじゃどうしようもないでしょ?」
その時、何度も司の背中を叩きながら必死で話す私の頭の上に、ほんの少しの衝撃が走った。
司の顎がのせられたらしい。
「うるさい。ちょっとはおとなしくしろ。いつも一人で勝手に動いて俺を悩ませやがって。しばらく俺に抱かれてじっとしてろ」
司の胸に押し付けられているせいか、くぐもったような声となって聞こえてくる。
そうでなくてもきっと、普段よりも低くて押し殺しているとわかる声。
「司……?」
ほんの少し緩んだ力を感じて、そっと顔を上げると、どこか悔しげな司の顔があった。
何も見ていない、それでいて思いつめているような瞳に。
こんな時にどうかと思うけれど、不思議とときめいてしまう。
やっぱり、整った顔ってどんな表情をしていても見とれてしまうなあと、まるで空気を読んでいないような思いが浮かんで苦笑してしまう。
そんな私の様子に気づいたのか、怪訝そうに視線を落とした司は眉を寄せた。
「何?」
「え?あ、なんでもない。司ってやっぱり司だなあって思ってただけ」
へへっと笑ってごまかす。
司はいつでも格好いいし、素敵だなんて、こんな時に言っても説得力ないか。
「……何言ってるんだ?真珠の方こそいつでも真珠のまんまだろ?」
司は、ほんの少し私から距離を作って、あからさまなため息。
それが、何故か不安になる。
抱きしめられている時には痛くて息苦しくて面倒だったけれど、離されると途端に寂しくなるなんて、どこまで私は恋する女の子なんだ。