桜空あかねの裏事情
「見た目はともかく、性格は身近にいた貴方に影響されてしまったようで……残念です」
普段から彼がよく言う皮肉を自分なりに言えば、ジョエルの怪訝な表情は明らかに不快なものに変わり、微かに舌打ちが聞こえた。
「………。修繕が終わり次第、朔姫に連絡させる」
「かしこまりました」
姿勢を低く頭を下げて了承すれば、ジョエルは背を向けて部屋を出ようとする。
「……そういえば」
ジョエルは不意に立ち止まり、顔だけこちらに向けた。
「気のせいでなければ、円卓の間が近頃やけに賑やかだと感じるのだが―」
心当たりはあるか?と言わんばかりの視線に、結祈は自身の心臓が跳ねるのを感じた。
だがあの事は、まだ知られてはいけない。
この約五日、考えに考え抜いた作戦だ。
「…確かにそうですね。皆さん、あかね様の事を心配なさっているので」
それは嘘ではない。
話し合っている彼等は、自分を含めて彼女の為に意見を出し、動いているのだから。
その答えに納得したのか、ジョエルは再び前に向き直る。
「…そうか。それならいいが、念のため見張っておけ。特に昶は、余計な事を考えているだろうからな」
「…はい」
「とは言え…結局は何をしようが、お嬢さんはもうすぐ帰ってくるがな」
「え?」
意味深な言葉を残し、問い詰める前にジョエルは部屋から出て行ってしまった。
残された結祈は、静寂に包まれた部屋で思考に浸る。
――あかねがもうすぐ帰ってくる…?
もしかして、僕達の計画が知られているのか。
いや、まだ成功したわけでもない上、仮にそうなら彼はこの場で咎めたはず。
或いは、ジョエル自身も何かしら動いているのだろうか。
残された言葉だけでは、確信どころか断定も出来ない。
それに今は、そんな事を考えるよりもやるべき事がある。
考えるのはその後にしよう。
そう決意した結祈もまた、部屋を後にした。
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