桜空あかねの裏事情

「見た目はともかく、性格は身近にいた貴方に影響されてしまったようで……残念です」


普段から彼がよく言う皮肉を自分なりに言えば、ジョエルの怪訝な表情は明らかに不快なものに変わり、微かに舌打ちが聞こえた。


「………。修繕が終わり次第、朔姫に連絡させる」

「かしこまりました」


姿勢を低く頭を下げて了承すれば、ジョエルは背を向けて部屋を出ようとする。


「……そういえば」


ジョエルは不意に立ち止まり、顔だけこちらに向けた。


「気のせいでなければ、円卓の間が近頃やけに賑やかだと感じるのだが―」


心当たりはあるか?と言わんばかりの視線に、結祈は自身の心臓が跳ねるのを感じた。
だがあの事は、まだ知られてはいけない。
この約五日、考えに考え抜いた作戦だ。


「…確かにそうですね。皆さん、あかね様の事を心配なさっているので」


それは嘘ではない。
話し合っている彼等は、自分を含めて彼女の為に意見を出し、動いているのだから。
その答えに納得したのか、ジョエルは再び前に向き直る。


「…そうか。それならいいが、念のため見張っておけ。特に昶は、余計な事を考えているだろうからな」

「…はい」

「とは言え…結局は何をしようが、お嬢さんはもうすぐ帰ってくるがな」

「え?」


意味深な言葉を残し、問い詰める前にジョエルは部屋から出て行ってしまった。
残された結祈は、静寂に包まれた部屋で思考に浸る。


――あかねがもうすぐ帰ってくる…?
もしかして、僕達の計画が知られているのか。
いや、まだ成功したわけでもない上、仮にそうなら彼はこの場で咎めたはず。
或いは、ジョエル自身も何かしら動いているのだろうか。

残された言葉だけでは、確信どころか断定も出来ない。
それに今は、そんな事を考えるよりもやるべき事がある。
考えるのはその後にしよう。
そう決意した結祈もまた、部屋を後にした。



.
< 621 / 782 >

この作品をシェア

pagetop