桜空あかねの裏事情
泰牙は後ろを振り返る。
差ほどの距離でもない廊下が続いているが、何故か妙に長く感じる。
アーネスト達がよく話し合っている部屋から、微かに話し声が聞こえる。
きっと彼女の事を話しているに違いない。
ここに避難してからというもの、オルディネの面々はその事ばかり話していたと泰牙は思う。
初めてあかねがいなくなった事を知らされた時、泰牙自身も決して動揺しなかったわけではないが、彼等の動揺はそれ以上で呆気に取られたと同時に、仲間一人に対して深刻過ぎじゃないだろうかと、密かに思っていた。
口に出しては言えないが、泰牙は自分の考えが間違ってはいない事を自負していた。
異能者であるなら、ましてやチームに所属しているなら、それだけのリスクがあるという事も理解しているはずだ。
否、理解しなければならない。
例え保障はされていても所詮は、実力主義。
未成年だからと言って例外ではない。
だから彼女のように襲撃され、攫われたとしても大方、自己責任となる。
つまりは攫われた方が悪いのだ。
だから彼等が彼女を心配し、上司であるサングラスの男に内密で何かをしようとしている事が、泰牙は不思議で仕方なかったのだ。
そこまで必死なのは、彼女が御三家の息女だからと考えたりもした。
だが権力目当てで、軽薄で上辺だけの輩とは違うのは明白で、やはり見当がつかなかった。
――でももう関係ないか。
――考えたところで、何をするわけでもない。
――アーネストや結祈くん達も俺に優しくしてくれた。
――サングラスの人も、さっさと追い出したかっただろうに、怪我が治るまで何も言わずにいさせてくれた。
――感謝している。
――けど、今去れば二度と会わない人達だ。
――あかねちゃんとの約束を破っちゃうのは心苦しいけど、仕方ない事だから。
泰牙は言い聞かせるように胸奥でそう繰り返して、ドアノブに手をかけて、ゆっくりと回した。
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