桜空あかねの裏事情
「あれー?なにしてんのー?」
間延びした声が聞こえ、思わずドアノブから手を離す。
するとドアは開いていたのか、ひとりでに動き始め、外の光が僅かに射し込む。
「そこ裏口だよー?出入り口あっち」
反対側を指差しながら、そう言ったのは陸人であった。
挨拶と指で数える程しか会話をした事はないが、確か御三家の一つ、菊地家の子息でサングラスの男に次いで、自分の事を快く思ってない。
泰牙は陸人に対して、そういう見解をしていた。
「何か欲しい物があるなら言ってくれれば良かったのにー。ボク、コンビニまで行ってきたからさー」
コンビニという不可解な単語が気になりながらも、泰牙は思考を巡らせ適当な理由を探す。
「んーと……実はちょっと外の空気を吸いたくなってね。でも人通りがあるところは、気が進まなくて」
「あーそっか。アンタ、お尋ね者だもんねー」
この鼻につく物言いは、どうやら彼の癖らしい。
彼女やアーネストがそう言っていたのを思い出す。
――確かに直接言われると、あまりいい気はしないね。
――だがここを去れば、もう聞くこともない。
そう思えば彼の言動は些細な事で、自分の咄嗟の言い訳に納得してくれたか否かが重要であった。
「わりと直球で言ってくれちゃうんだね」
「だって事実じゃん?こっちも迷惑してるしねー」
「あははー。こりゃ手厳しい」
毒を吐いた言動は変わらないが、納得した素振りもある。
おどけながらもこのまま数回ほど会話を交わせば、やり過ごせるだろうと泰牙は思った。
「でもさー」
「ん?」
「そう言って、ホントは逃げ出すつもりだったんじゃないの?」
「――え?」
そう安易な考えを抱いたのが甘かったのか。
不意に核心を突かれて、思わず肩が跳ねそうになる。
陸人を見遣れば、挑発的な意地悪い笑みを浮かべていた。
――ああ、これが彼の本性か。
泰牙は直感的にそう感じた。
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