桜空あかねの裏事情
アロガンテ屋敷 地下
「君にはこれを着てもらう」
矢一にそう告げられ、あかねは渡された衣服を見た。
「……これって」
浴衣に見えるそれは、白を基調として淡い桃と青の花の模様があしらわれ、丈はスカートほどに短く、裾や襟、帯には黒の華美なレースの飾りが施されていた。
「なんか派手」
「代々、付人が着ていたものだ。着替えたら声を掛けてくれ。外で待っている」
「あ、待って」
矢一が去ろうとすると、あかねは呼び止めた。
「黒貂は?」
「黒貂様なら、則義様に呼ばれて共にいる」
「そう……」
――やっぱり、自分がいる時は片時も離れたくないって感じなのかな。
好かれ過ぎるのも大変なのか、愛っていうのが重いのか。
「…心配しなくても、約束は守る」
不意に黙った所為か、矢一は気遣うように言葉を掛ける。
本当に帰れるのかと疑心を抱いたと思ったのだろう。
しかし、そんな事は考えてなかったあかねは、目を丸くして首を振った。
「あ、それは心配してないんだけど」
「してないのか」
「え、した方がいいの?」
そう聞き返すと、今度は矢一が目を丸くする。
そしてそのまま固まってしまったように動かなくなり、不思議に思ったあかねは顔を覗きこむ。
すると何を思ったのか、矢一は不意に口元を手で覆った。
「矢一?どうしたの?」
「…ふ…」
問い掛ければ、声が漏れるだけで言葉は返って来ない。
少しだけ様子を見ていると、肩が僅かに震えているのにあかねは気が付く。
――もしかして笑ってる?
半信半疑ながらも、再度様子を見れば、やはり矢一は笑っていた。
彼が表情を崩して笑うのを、初めて見たあかねは珍しいと思いながらも、控えめに口を開いた。
「えっと……何か笑うようなこと言ってた?」
「…否」
笑いが収まったのか矢一は首を振り、口元から手を離す。
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