桜空あかねの裏事情
「前から思っていたが、君は少し変わっている」
「か、変わってる?」
――それって変人ってこと?
ジョエルと同じなのはイヤだな。
「警戒してると思えば、無防備。不安なのかと思えば、しっかりしている」
「……それって褒めてる?貶してる?」
「両方だ」
「む」
納得いかないのか、複雑な表情を浮かべるあかねに対し、矢一は穏やかな笑みを浮かべている。
「だからこそ、良かったのだと思う」
「?」
「君にとっては迷惑極まりない話だが、ここ数日で黒貂様はよく笑うようになられた」
「それって、前は笑ってなかったの?」
「断定は出来ないが……無理して笑っていた気がする」
「………」
「だが君がここに来てからは、心から笑っているような気がするのだ」
「…そうなんだ。私も黒貂と話すの楽しいよ」
「そうか。それなら良かった。私自身も、君の要望に応えるのは楽しかった」
「え、嘘」
――オムライスが食べたいとか、雑誌を読みたいとか枕が痛いとか、ジョエルだったら嫌がりそうな事を色々当てつけたんだけどなぁ。
矢一に言った難題を振り返りながら、あかねは頭を悩ます。
「個人的に、結構な難題を押し付けたつもりなのに…」
「あれは難題だったのか。やはり君は変わっている」
そう言って穏やかな笑みを浮かべたまま、矢一は背を向けて歩き出す。
「話し過ぎたな。支度をしてくれ」
矢一が部屋を出ると、あかねは与えられた服を抱えながら、黒貂と過ごした部屋を見渡す。
相変わらず窓のない閉ざされた空間。
――ようやくみんなの元に帰れる。
まだ断定出来るわけじゃないけど、そんな気がする。
だけど――。
私がいなくなった後、黒チョウはどうするんだろう。
矢一はどうするんだろう。
私が来る前の日々に戻るのかな。
矢一が言ってたように、無理に笑って過ごすのかな。
考えても仕方ない事なのに、どうしても考えてしまって。
気になってしまうの。
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