桜空あかねの裏事情

数分後。
着替えが終わり扉を叩けば、ゆっくり開いた。
外に出れば、言った通り矢一が待っており、彼に案内される形で歩いていく。
階段を上がり、一階へと出て少し歩けば椅子がいくつかある部屋に通される。
談話室だろうか。


「あかね様…!」


そこには既に、身支度が整った黒貂がいた。
あかねと同じく和装だが、対照的な黒を基調としており、丈は膝が隠れるか隠れないほどで、裾はアシメトリーなデザインであった。
艶のある長い髪は、珍しく結い上げており、高価な物であろう簪を挿してある。
普段も目を引く美しさだが、着飾ればそれ以上に美しさが際立つものなのだと感じた。


「お待ちしておりました。思っていた通り、とても愛らしゅうございます」

「ありがとう。黒貂もすごく綺麗。お姫様みたい」

「そんな…大袈裟ですわ」


どこか困りながらも、優しげな微笑みを浮かべる黒貂に、あかねもまた微笑む。


「黒貂様。則義様は?」

「先程どなたからか電話があったようで、自室に戻られましたわ」

「電話…」


黒貂の言葉に矢一はそれだけ呟く。
何か思い当たる節があるのだろうか。


「あの様子では恐らく、戻るまで時間が掛かるかと思いますが」

「諾。では私は、少し外に出ています」

「ええ。頼みましたわ」


矢一は頷いて、部屋を出て行く。
扉が閉まった音がすると、黒貂は笑みを浮かべたまま、あかねの方を振り返った。


「ようやくですわね。あかね様」


黒貂にそう言われ、あかねは真剣な面持ちになる。


「手短にご説明させて頂きますね。闇市に着きましたら、あかね様はまずオルディネの方々をお探し下さいませ。そして見付ける事が出来ましたら、矢一にお教え下さいませ」

「矢一に?」

「はい。さすれば、彼はその方に石を渡す事が出来るはずです」


.
< 638 / 782 >

この作品をシェア

pagetop