桜空あかねの裏事情
「石?」
「こちらですわ」
黒貂が見せたのは円形の透明な石で、それを手に取って見ると、駿が以前見せてくれた異能石を思い出す。
「これって、もしかして異能石?」
「はい。ご存知でしたのね。これは矢一の能力である【瞬間移動】の力が込められおります」
「矢一の…」
手のひらにあるそれは、ビー玉のように透明で波のような薄緑の模様があり、とても澄んでいた。
「この手の能力は、目的の場所を思い浮かべて使うものらしいのですが、あかね様はこの近辺にはあまりお詳しくありません。ですのでもう一つ石を作り、それをオルディネの方々の誰かに持たせれば――」
「その石を持つ人ところに瞬間移動できるってこと?」
「はい。その通りで御座います」
能力を使いながらも騒ぎ立てず、なるべく穏便にかつ迅速に事を運びたいということなのだろう。
「でも…もし見つからなかったら?」
矢一が言っていたように、オルディネに目立った動きはない。
つまり昶達が来ていない可能性だって、十分にあるのだ。
「ご安心下さいませ。そのような事態の場合も、きちんと備えてありますから」
笑みを浮かべたまま、黒貂はそう答えた。
恐らく不安を少しでも拭おうとしたのだろうが、あかねにしてみれば、重い何かがのしかかったように、気は晴れなかった。
どちらであったとしても、自身の目的もやるべき事も変わらないはずなのに。
――気掛かりなのは多分、それだけじゃなくて……。
「他に気になる事は御座いますか?」
「一つだけ。ねぇ黒貂」
「はい」
透き通るような青い瞳と、宝石のように美しい翡翠の瞳が交わる。
「あのね。もし…もし私が――」
そう言いかけた時だった。
「お二方。もうじきオーナーが参ります」
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