桜空あかねの裏事情

プラティア 第五区



月明かりに照らされた
至る所に散らばる瓦礫。
埃にまみれた空気。
荒廃した建物が連なるその場所は、本来なら人が足を踏み入れる事のない、静寂を保ち続ける危険区域である。
だが今日に限り、この区域の静寂は破られていた。
ある場所への出入りによって。


「どうやら……あそこが入口のようだね」


細い裏道に身を潜め、そこから見える建物に集まる人々と、周囲の様子を伺いながら、アーネストはそう呟いた。


「ええ。そのようですね」


彼の言葉に応えながら、結祈もまた様子を伺う。


「ですが以前の入口と、大分違うような気がします」

「ああ、そうだね。入口の場所は、毎回変えているようだから。私が最後に行った時は確か、この区の辺境だったよ」

「それは、やはり協会に見つからない為にですか?」

「大方そうだろうね」


アーネストはそこで後ろを振り向く。
目に映ったのは、少し離れた場所で普段より堅い表情をして座り込む昶と、彼の隣で相変わらず仏頂面をした駿が、壁に背を預けていた。


「二人共、準備は宜しいかな?」

「問題ない」

「バッチリ……多分」


恐らく緊張しているであろう二人に声を掛け、アーネストは昶に近寄る。
そして彼と目線を合わせるようにして屈んだ。


「いいかい、昶。何があっても、駿の傍を離れてはいけないよ」


頭を撫でながら諭せば、昶はふてくされたように目を背ける。


「ッんなの……俺もう子供じゃないんで、分かってますって。」

「ふふ。これでも君の身を案じているんだよ。君に何かあれば、あかね嬢が悲しむ」

「うっ。そりゃそうだけど……ん?でもそれって、俺よりあかねの心配じゃ…」

「おや。バレてしまった」


悪びれる様子もなく、いたずらに笑みを零していると、周囲の様子を伺っていた結祈が振り向く。


「アーネストさん。そろそろ…」

「ああ、分かっているよ。後で合流しよう。あかね嬢も共に」

「はい……昶、駿」

「ああ。行ってくる」

「くれぐれも気をつけて」

「おう!待ってろよ、あかね!」


意気込みにはそれぞれ温度差があれど、同じ目的の為、裏道から出て闇市へと向かって行く三人。
彼らの姿が見えなくなるまで見送れば、辺りは一瞬にして静まり返った。
意識しなくても、風の音が確かに聞こえる。
その音を聞き終わると同時に、アーネストは口を開いた。


「もう大丈夫だよ」


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