桜空あかねの裏事情

そして結祈は変わらず誰かと話しているが、何故だか困ったような表情を浮かべている。


「面白いって……結祈、困ってませんか?」

「さぁどうだろう。いずれにせよ、私はやるべき事をするまでさ」


アーネストはそう言い終わると、あかねから自身の背後に視線を移した。


「君がアロガンテの諜報だね。なかなか腕が立つとか」

「否、我はするべき事をしているだけ。貴方には遠く及ばない」


まるで最初からそこにいる事が分かっていたように平然とした態度で、背後にいる矢一に声を掛けるアーネスト。
そんな彼に対して微動だにせず、無表情で言葉を返す矢一だが、視線が幾分か鋭い。


「矢一、この人は―」

「分かっている。五指のジョエルと親交が深い“情報の才子”アーネスト・ウィンコット」


あかねが言わずとも知っていたようで、矢一は名前どころかを通り名まで口にする。
その反応に満足したのか、アーネストは笑みを貼り付けたまま目を細める。


「私が見る限り、君はアロガンテにいるには勿体無いくらい誠実だ。故に内に秘めた想いと、それに反する現実に心が苛まれている」

「何を…」

「隠す必要の無い事実さ。だからと言って、君が敵である事実は変わりないけれどね」


一層鋭くなる矢一の視線に、アーネストは臆することなく流暢に言葉を紡ぐ。
だが決して警戒していないわけではないのだろう。
その証拠に、二人のやり取りを見ていたあかねを、より自身の方へ引き寄せる。


「あかね嬢は返してもらうよ。私達の大切な娘だから」

「無論そのつもりだ。故に危険を承知で、彼女をここへ連れて来た」


矢一はそう断言してあかねに目配せをする。
それ気付いたあかねはハッとして、即座にアーネストに向き直る。


「アーネストさん。お願いがあるんですけど――」


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