桜空あかねの裏事情

「ああいう相手には、ジョエルの名を出すのが有効な事くらい、分かっていただろうに」

「それは……」


結祈は俯くと、言葉を詰まらせる。


「…こんなことで、あの人の名を使うのは抵抗がありますので」


その言葉にアーネストは酷く納得する。
彼を頼らなければ何も出来ないと恐れているのか、普段から反抗しているが故に自尊心が許さないのか、はたまた純粋な嫌悪から来ているのかはさておき、結祈はジョエルに頼りたくないのだと。
例えばそれが、どんなに些細な事であったとしても。


「…気持ちは分からなくないけど、こういう時ぐらいは頼ってみたらどうだい」


子が親を頼ることなど、ごく自然なこと。
だが結祈は何とも言えない複雑な表情を浮かべている。


「あれでもジョエルは君の親だ。ここぞという時には、迷惑掛けてしまえばいいよ」

「……」

「そうだ。いっそあかね嬢みたいに、振る舞ってみたらどうかな?」

「え!?そ、それはちょっと」

「冗談だよ」


アーネストが笑うと、結祈もつられて少し笑う。
だが何か思い出したのかハッとして、すぐにバツが悪そうな表情を浮かべた。


「申し訳ありません。作戦の途中であるというのに、このような失態とご迷惑を」

「え?ああ…」


気の抜けたような対応に、結祈は首を傾げる。


「それなら心配はいらない。彼女はもう見つけたよ」

「!…本当ですか?」

「マジで!?どこ?ってか、どこ!?」


静かに驚く結祈とは反対に、あかねの話になった途端に会話に割り込んで、騒ぎ始める昶。
様子を見る限り、本来の目的を忘れていなかったようだ。


「連れて行こうとしたのだけれど、どうやら気掛かりな事があるみたいでね。もうしばらく彼等と共にいたいそうだよ」

「え、それ大丈夫なのかよ?」

「一応ね」

「そっか。なら良いけど」


怪訝な表情で尋ねる昶に短く答えれば、安堵して再び駿と話し始める。


「…まぁ、本当に一応なのだけれどね」

「ですが貴方がそう判断したという事は、救出する算段を他に備えてある。と言うことですよね」


呟きにも等しい言葉を、聞き逃さず追求する結祈。


「勿論。そうでなければ、可愛いあかね嬢のお願いでも聞けないさ」


アーネストは自らの掌を広げ、そこにある石を見つめる。


「予期せぬ出来事ほど実に興味深い。ああでも……それに関しては彼も同じ事か」

「?」

「さて、私達は一旦この場から退こう」

「陸人さん達はどうしますか?」

「二人には私から直接伝えるよ」

「分かりました」


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