桜空あかねの裏事情
闇市 休憩所
「何故」
喧騒の中、紡がれた言葉にあかねは振り返る。
アーネストと無事に再会を果たし僅かなやり取りの後、あかねは彼の手を取る事はせず、代わりに矢一の異能石を託した。
――少し意外だった。
差し伸べられた手を素直に取ることが出来ないほど、あかねには気掛かりな事があった。
アーネストの手を取りたい気持ちを抑えて、矢一達が考えた計画を告げた。
てっきり跳ね除けられると思っていたが、暫しの沈黙の後に彼は、あかねの意志を尊重する選択をした。
「何が?」
矢一の迫るような言葉に、あかねは静かに言葉を返した。
「絶好の機会だった」
「うん。石を渡せて良かった」
そう答えれば、矢一は大層不満そうな表情は浮かべる。
対してあかねは、ただ苦笑する。
「分かってるよ。アーネストさんと一緒に行った方が良かった事くらい。棒に振っちゃったようなものだよね」
「なら――」
「でも気になる事があるの」
目を逸らさず、言葉を遮ってまではっきりとそう告げる。
「それは……黒貂様の事か?」
思案した矢一がそう尋ねると、あかねは頷く。
すると矢一は申し訳なさそうに口を開いた。
「我が言ったことは、気に病むことはない」
「気に病む?」
「否。余計な事を言った自覚はある。君の判断を鈍らせたな――」
「は?いや、違うよ!」
またも言葉を遮って、あかねは慌てて制止する。
「誰が何と言っても、私は絶対みんなのところへ帰る」
あかねは真剣な眼差しで決意を表す。
「ただそうする前に、黒貂に聞きたい事があるの」
「聞きたい事?」
「そう。ここに来る前にも聞こうとしたけど、聞きそびれちゃって。それを聞いたら、この石使って帰るから」
掌を広げ、そこにある石を見ながら答える。
ビー玉のように丸く透き通った石。
そして控えめながら、刻むようにある緑色の波模様が何だか矢一らしいと感じる。
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