桜空あかねの裏事情

石そのものが矢一の片鱗と言えるので、当然と言えば当然なのだが、そう思わずにはいられなかった。
あかねは少し笑みを零すと、矢一を見上げた。


「だからもう少しだけ、わがままに付き合って」


笑顔でそう言えば、矢一は溜め息を吐いた。


「…オルディネの面々は、さぞ苦労しているだろうな」

「む!そんな事ないし。で、返事は?」

「諾」

「やった!」

「ただし、目的を遂行したら必ず帰る。約束だ」

「うん!」

「あかね様…!」


呼ぶ声に振り向けば、すぐ後ろに黒貂の姿があった。
穏やかな笑みを浮かべてはいるものの、どこか落ち着きがなく、あかねは首を傾げる。


「どうしたの?」

「いえ、その……大したことではないのですが」

「?」

「そう言えば、どなたかとお話しされてましたね。もしかして」

「あ、うーんと……実はちょっと違うんだ。でも知り合いだよ」

「では」


その言葉にただ頷けば、黒貂は安堵したように息を零した。


「……良かった。これであかね様の御身は保証されましたわ」

「保証って…そんな大げさな」

「いいえ。例え私達の身がどうなったとしても、貴女様が無事にオルディネの皆様の元へ戻られる。それだけが私の願いなのです」


黒貂が迷いなくそう告げると、あかねは困ったような笑みを浮かべる。


「ありがとう。でも私は、二人にも無事でいて欲しいよ」

「……あかね様」

「だからね、黒貂。一つ聞きたい事があるの」

「聞きたい事、ですか?」

「うん。例えばだけど、籠の中に鳥がいたとするでしょ。でもある日、鍵が外れている事を知る……その鳥はどうすると思う?」


あかねの脈絡のない問いに、黒貂は不思議に思いながらも、思考を巡らす。
そして間もない内に、口を開いた。


.
< 656 / 782 >

この作品をシェア

pagetop