桜空あかねの裏事情
「……そのまま、籠の中にいるかと思います」
「どうして?外へ行けるんだよ」
「確かに外に出たいと思うでしょう。ですが飛び出したところで、その鳥は生きてはいけません」
「…そんな事ないよ」
「いいえ。籠の中でしか生きた事のない鳥に、外で生きる術はありません」
黒貂にしては珍しく、あかねの言葉を否定する。
だからこそあかねは、彼女に更に問い掛ける。
「なら……籠の外にもう一羽、鳥がいたとしたら。その鳥は籠の中にいる鳥に鳴いて、呼び掛けてるの。一緒に行こうって」
「一緒に……」
「それでも籠の中の鳥は、外に出ようとはしないのかな」
「……」
最後まで言い切って、あかねは黒貂を見上げると、彼女の表情から笑みが消えていた。
ただ俯き無言になる彼女を見つめても、何かが分かるわけではないが、それでもあかねは見つめ続けた。
黒貂が何かしら答えるだろうと、淡い期待を秘めて。
それから暫く時が過ぎたが、黒貂は結局のところ沈黙を貫いたままだった。
そしてあかねは、とうとう矢一に声を掛けられてしまった。
「則義様が他の会場に移動した。悪いがこれ以上は」
「……分かった」
間をおきながらも、あかねは静かに返事をする。
「なるべく人目は避けたい。場所を変える」
矢一の言葉にあかねは頷き、彼に続いて歩き出す。
すると二人の後ろにいた黒貂もまた歩き出した。
それに気付いた矢一は、制止するように振り返る。
「黒貂様、後は我が」
「いいえ」
黒貂は首を横に振る。
「私も共に参ります」
「ですが…」
「いいんじゃない?」
渋る矢一にあかねは声を掛ける。
「きっと心配なんだよ。それにまだ、さよならの挨拶もしてないしね」
笑みを浮かべ更に言葉を続ければ、黒貂は少しだけ微笑み、それとは対照的に、矢一は困惑した表情を浮かべて再び歩き出した。
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