桜空あかねの裏事情
矢一を追いながら、会場を出て歩いていく。
進んでいく内に、すれ違う人の数が徐々に少なくなっていき、足を止めた時には既に人の通りも少なく、喧騒も微かに聞こえる程度であった。
「この辺りなら、問題ない」
周囲を確認しながら、そう呟く矢一。
そんな彼に、あかねは笑顔を向ける。
「ありがとう、矢一。こんなに親切にしてもらっちゃって」
「否。礼を言われる事などない。むしろ礼を言うのは我の方だ」
矢一は優しく微笑む。
「君といた数日間、我も楽しかった。ありがとう」
目の前で感謝の意を述べられ、あかねは何だか照れくさくなって、頬をほんのり染める。
誤魔化そうと人差し指で頬を掻いて、視線を横に向けると、ふと黒貂と目が合う。
微笑みを浮かべてはいるものの、その翡翠の瞳はどこか悲しげに映る。
その瞳を澄んだ青い瞳で逸らす事なく、しっかりと捉えると、あかねは彼女に満面の笑みを向ける。
「黒貂もありがとう。いつも私に優しくしてくれて。二人がいてくれたから、私みんなと離れてても、そんなに不安じゃなかったよ」
「そんな……勿体無いお言葉で御座います。私こそ、あかね様と過ごした日々は、短くともあまりに幸せでした」
「…そっか。良かった。また会おうね」
「……はい」
黒貂が頷いたのを見て、あかねは懐から矢一の異能石を取り出す。
――えっと……相手を強く思うんだよね。集中しなきゃ。
アーネストを始め、昶や結祈の顔を思い浮かべる。
だが石は一向に変化を見せない。
――大丈夫。
――私はみんなのところへ帰るんだ。
――必ず。絶対…!
そう強く念じれば、石はあかねの想いに応えるように少しずつ、淡い光を含み始めた。
「光った…!」
「っ……あかね様ッ…!」
「えっ――」
「ムフフー♪ミーツケタッ♪」
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