桜空あかねの裏事情

足をじたばたとさせながら文句を投げる少女に対し、黒貂は微動だにせず、真剣な面持ちで相手を見据えている。


「アナタニヨウハナイノ!ドイテヨッ!」

「いいえ」


黒貂は首を振る。


「これ以上、あかね様を傷付ける事は許しません。この方に危害を加えるなら、私を倒してからになさい」

「黒貂…!?」


あかねの悲鳴じみた呼び声に、黒貂は顔だけ振り返り優しく微笑む。


「大丈夫ですわ」


その言葉の意味が分からず、あかねは黒貂を見るが、彼女の視線は既に前を向いていた。
視線の先には対峙している少女がいる。
周囲に火の玉を浮かべ、既に臨戦態勢だが、何故か攻撃しようとする様子は見られない。
むしろ、どこか攻めあぐねているという印象を受けた。


「…恐らく、則義様に私には手を出すなと言われているのでしょう」


黒貂は不服そうな声色で答えるが、彼女に対する則義の態度を見てきたあかねは酷く納得する。
ふと掌にある石を見れば、光は小さくなってはいるものの、なんとか輝きを保っていた。


「あかね様」


不意に名を呼ばれ、顔を上げる。


「先程の質問の事なのですが」

「!……うん」


あかねが頷くと、黒貂は申し訳なさそうに目を伏せる。


「私はやはり……籠の中の鳥は所詮、籠の中かと思います。例え外に呼び掛けてくれる仲間がいたとしても、恐怖や不安を拭いきれるとは思えません」

「……そっか」

「ですが」


落胆の声を零すと、黒貂は再び声を掛ける。


「もし……その籠の中の鳥が私だとして、呼び掛けているのがあかね様だったとしたら」

「………」


「私は迷うことなく、貴女様と共に外の世界へ往くでしょう」

「!」


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