桜空あかねの裏事情

思わぬ言葉に、あかねは目を見開いて黒貂を見上げる。
だが彼女は正面を見つめていて、その表情は見えない。


「なら…」


黒貂の想いを聞いたあかねは、ようやく意を決する。



「私が……私が、今ここで」



――もしかしたら勘違いかも知れない。



「一緒に行こうと手を差しのべたら」



――でもそれでも言いたい。
――間違っててもいいから。



「あなたは………私の手を取ってくれる?」



――あなたの気持ちを知りたい。




そんな思いを込め、あかねは黒貂に向けて手を差し出す。


「あかね…様?」

「黒貂。私はあなたの本当の気持ちが知りたい」

「っ」

「ねぇ、あなたは今どうしたい?何を思っているの?」

「私…は……」

「私はね、昶やジョエル…みんなのところに帰りたい。それとね、あなたを連れて行きたい」

「え――」


驚く黒貂に、あかねは優しく笑う。


「私が言うのもあれだけど、あなたはもっと外の世界に出るべきだと思う。そして色々なことを……自分の幸せを知って欲しい」

「あかねさ――」

「ムーッ!!」


黒貂の言葉を遮って、少女の声が割り込む。


「チョット!フタリノセカイニ、ハイリコマナイデヨ!」

「うるさい。“邪魔しないで!”」

「ギャ!」


睨み付けながら言霊を使うと、少女は短い悲鳴をあげて黙り込む。
それを確認すると、あかねは再び黒貂へと視線を戻す。


「あなたの気持ちを聞かせて」

「っ……私は…」


鈴のような声は、とてもか細く震えている。


「私は今まで…あの地下で、過ごしてきました。そしてこれからも……あの場所で、則義様の元で……過ごしていくものだと思ってました」

「………」

「だけどッ…」


黒貂は差し出されたあかねの手を掴む。
その翡翠の瞳から涙が、頬を伝って零れ落ちる。


「今……私は…ッ……あなた様…と……あかね様と、…一緒…に……いたい…!それが、…どんな…場所、でも!」


泣きながら、必死に想いを告げる黒貂。
その手は震えている。
けれどその手は温かく、手離さぬように、あかねの手をしっかりと掴んでいた。


「それが……黒貂の本当の気持ちなんだね」

「っはい…!」

「分かった」


あかねは微笑んで、目を閉じる。
すると石は一瞬にして強い輝きを放ち、二人を覆うように優しく包んだ。

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