桜空あかねの裏事情


そんな中、不意に頭を撫でられるような感覚がして、あかねは肩を跳ねらせる。


――な、なに?
――今、頭になんか……。

妙な感触に戸惑っていると、不意に乾いた笑い声が聞こえた。


「うーん……怖がらせるつもりはなかったんだけどなぁ」

「え……あっ」


聞き覚えのある声に、あかねは思わず顔を上げる。
そこにいたのは、予想もしない人物であった。


「あれは…!」

「エーッ!?ウソー!」


風が止むのと同時に現れた人物に、少女と女は驚きの声を上げる。
そしてあかねもまた、目の前にいるその人物に対し驚きを隠せなかった。


「どうして……」

「どうしてって……君を助けに来たに決まってるじゃない」

「でも怪我は」

「結祈くん達のお陰で大丈夫!だからもう、心配しないで」

「泰牙さん…!」


どことなく安心感のあるその言葉に、あかねは目の前の男の名を呟いて、笑みで顔を綻ばせる。
その姿に泰牙もまた笑みを向けるものの、申し訳なさそうに眉根を下げる。


「ごめんね。こんなに傷だらけなっちゃって。でもよく頑張ったね。ここからは俺に任せてちょうだい」


あかねが頷くのを確認すると、泰牙は鋭い目つきで少女と女を交互に一瞥する。


「俺が来たからには、もうこの子に手出しはさせないよ」

「ソレハコマルー!ダケド、アンタハエモノデ、サイユウセンジコウ♪」

「そうですわね。貴方から出向いて下さるなんて、好都合ですわ」


少女は火の玉を作り、女は武器である鞭を構える。


「悪いけど、前のようにはいかないよ。今の俺には、守るべきものがあるからね」

泰牙は右手に携えていた鎌を握り直し、左手であかねを引き寄せると、強い突風が吹いた。


「ムムムッ!カゼトカズルイ!」

「狡いのは君もでしょうに。“疾風弾”!」

「ッ!」


言葉を交わしながら、泰牙は自身が起こした風で容赦なく少女を吹き飛ばす。
あまりにも自然な流れに圧倒されるが、それよりも躊躇いもなく異能を平然と使う泰牙の姿が、あかねにはどこか遠くの人に感じられた。


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