桜空あかねの裏事情

黎明館



「…………」


――力の片鱗を感じる。
――どうやら、お嬢さんも多少は成長しているらしい。


「ジョエルさーん。いちおー、玄関のほう修繕したけど、こんなもんでいいっぺ?」


夜空に浮かぶ月を眺めながら、窓辺で佇んでいたジョエル。
独特の口調に問い掛けられて振り返れば、アヴィドの襲撃によって崩壊していた玄関付近は、何事も無かったかのように元通りになっていた。


「ああ、問題ないな」

「そっすか。じゃあお代の方は、夜間料金と高速料金含めてこんくらいで」


ブラウン色のつなぎ服を着た女はそう言うと、材料費などの詳細が書かれた書類をジョエルに手渡す。


「高いな」

「そりゃうち個人なんで。そんくらい取らんと、食ってけないのが現状」

「クックッ……大変だな。では後日、君の口座に直接振り込むとしよう」


ジョエルから了承の言葉を聞くと、女は目を細め心底嬉しそうに笑った。


「まいどありー!どうか今後もご贔屓にー」


それから女は言いたい事だけ言うと、荷物を抱えて揚々と帰って行った。


「お疲れ様でした」


その様子を伺っていた朔姫が声を掛けると、ジョエルは何も言わず、ただ目線だけこちらに向ける。


「…やはり協会に頼まず、始めから彼女に頼んだ方が良かったな」

「お知り合いですか?」

「彼女の師とな。仕事の依頼は今回が初めてだが、なかなか良い腕をしている」


修繕された扉の感触を確かめながら、そう述べるジョエル。
朔姫はその様子を、何も言わずに眺めていると、ジョエルはふと、動かしていた手を止めた。


「そういえば――」


声を掛けられ、朔姫は顔を上げる。


「結祈達から何か連絡はあったか?」

「……いえ」


間を空けた答えに、ジョエルは僅かに口端を吊り上げる。


「そうか。やはり、随分と手こずっているようだな。多少の忠告してやったというのに。結局は無駄だったか」

「え…」

「私が何も知らないとでも思ったか?お前達がお嬢さんの為に、何らかの行動を起こすことくらい予想の範囲だ」

「ッ」


低く冷たい声に、サングラス越しからでも分かる鋭い視線。
それらを一身に受け、朔姫は思わず息を呑む。


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