桜空あかねの裏事情
「お嬢さんがいなくなってからというもの、私を避けて円卓の間で何かと話し、個々に妙な動きをしていたからな。更に今日は久方ぶりの闇市。何もないという方が、可笑しいと言うものだ」
「………」
「しかし戦力になるであろう君が残っている事に、些か疑問を感じたりもしたが、恐らく結祈辺りが君の身を案じたのだろう。君のような年頃は格好の餌食だからな。とはいえ、一人だけ残すのも忍びないと、私の見張りを任せられた……違うか?」
「…いえ……その通りです」
全てを言い当てられ、朔姫は頭の片隅で昶達を思いながら、申し訳なさそうに肯定した。
「結祈や昶はともかく、君まで私に何も言わず、動くとは思わなかったな」
「…すみません。勝手な事をしたと自覚はしています。言い訳をするつもりもありません。ですが、私もみんなと同じように、あかねを助けたかったんです。彼女がこうなってしまったのは、私の責任でもあるから。それに……友達だから」
俯きながらも、自身の想いを伝える朔姫。
当然ながら、始めからジョエルの意に反す事を考えていたわけではない。
あかねを助けたい。
その一心で、動いた結果そうなってしまっただけだった。
「…そうか。なら仕方がない」
俯いたまま朔姫をただ見下ろし、ジョエルは非難することも、皮肉を浴びせる事もなかった。
その事実よりも、朔姫は自分の行いを受容するような一言に驚き、思わず目を見開いた。
「怒ってないんですか?」
「怒る?君はただ純粋に友達を助けたかっただけじゃないのか?結果として、私の許可なく独断で動いたわけだが、好んで欺こうとしていたわけではないだろう」
「それはそうですが……」
「ならば、私に君を咎める理由はない。まぁ余計な事を企てた結祈や、己を弁えず無責任な行動に出た昶は別だがな。帰ってきたら、お灸を据えてやらねばならん」
歩きながら愉しげに言うジョエルに、朔姫は妙な罪悪感を覚える。
だが今は知らぬふりをしておこう。
そう密かに決めて、朔姫も後を追う。
「あの、ジョエルさん…」
「何だ?」
「あかねは…昶達と一緒に帰ってくると思いますか?」
待っているだけでは、何が起きてるかさえも分からない。
ただ無事に帰ってくることを、祈ることしか出来ない。
そんな不安がかさばり、思い切って尋ねてみれば、ジョエルは振り返った。
そこには不安を隠すように、強張った顔をした朔姫がいて、ジョエルは少しだけ笑うと、彼女の頭をそっと撫でる。
「案ずる事はない。お嬢さんは嫌でも戻ってくる。あれはそういう娘だ。君だって分かっているだろう」
「っ……はい」
ジョエルの言葉に励まされ、朔姫は強張った表情を解し、少しだけ微笑みをみせた。
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