桜空あかねの裏事情

ヴィオレット



「いらっしゃいませ!」


陸人に連れ立って着いた場所は、ヴィオレットだった。
穏やかな雰囲気に安堵する傍ら、店員の笑顔が妙に眩しい。


「店長はー?」

「いますよー」


陸人の声に応えるように、奥から呑気な声が聞こえた。
見れば、何か作業をしている湊志の姿があった。


「おや」

「こんにちは、湊志さん」

「いらっしゃい、あかねちゃん。それと陸人坊ちゃんも」


あかね達の姿を見て、奥から出てきた湊志。
久々に見た彼の姿に、あかねは思わず笑みを浮かべる。


「坊ちゃん言うなしー。みんなはー?」

「円卓の間にいるよ」

「ふーん。あ、ボクはオレンジジュースね」

「はいはい」


それだけ言って、陸人は一人、奥へと歩いて行ってしまった。


「ふふ。彼は相変わらず不器用だね」

「不器用?」

「ふふ。それよりあかねちゃん、無事に帰って来れて本当に良かったね」


安心したような笑みを浮かべる湊志。
藍猫からの帰り道で、襲撃されたあの日。
同じく館も襲撃され、オルディネの面々は暫くの間、ヴィオレットに滞在していたと、あかねは聞いていた。
故に自分が攫われたことを、湊志も知っていたのだろう。


「…そうですね。湊志さんにも心配掛けてしまって。でも、もう大丈夫ですから」

「そうかい。なら安心したよ。でも無理はしちゃダメだからね」

「はい。ありがとうございます」


あかねが嬉しそうに笑みを向けると、湊志もまた笑みを浮かべ、目を細めた。


「やっぱり君は、彼等に必要な存在だ。本当によく――」

「え?」

「いつもの部屋でみんな待ってるよ。飲み物は何がいいかい?」


湊志は近くにあったメニューをあかねの前に広げる。
慣れた手つきで開かれたそれは、丁度ドリンクのページで、あかねは迷うことなく、注文をする。


「了解っと。すぐに持っていくからね」

「はい」

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