桜空あかねの裏事情
「お待たせしました」
既に室内にいる人達に声を掛けつつ、あかねは円卓の間への扉を開けた。
そこには既にジョエル、アーネスト、結祈、陸人の姿があった。
そして――。
「あかね様」
既に耳に馴染んだ鈴の音のような声。
あかねは目を瞬かせる。
「黒っ…紅晶!」
名前を呼べば黒貂――もとい紅晶(コウショウ)は笑みを浮かべた。
「ビックリした。紅晶もいたんだね」
「はい。後程ジョエル様と陸人様と所用がありまして」
「そうだったんだ」
言いながら、あかねは紅晶の隣の席に座った。
あかねを奪還せんと一同が計画を遂行したあの日。
自分の心を打ち明けた紅晶は、矢一の異能石を使ったあかねによって、オルディネの面々の前に現れた。
その後、泰牙によって救出されたあかねの計らいにより、アロガンテに戻ることはせず、そのままオルディネに保護される形となった。
昶達と合流した後。
意識を失ったあかねは、それから約一日の事を詳しくは知らないが、結祈から聞いた話によると紅晶はジョエルと会合し、アロガンテからオルディネへと所属を移動する意志を示したという。
その際に、則義から付けられた黒貂という名前を捨て、自らの本名である紅晶と名乗るようになり、現在に至るのだった。
「昶さんと朔姫さんは、いらっしゃらないのですね」
「うん。二人はまだ学校なの。友達と勉強会やるんだって」
あかねの話を聞きながら、優しげな微笑みを浮かべる紅晶。
アロガンテにいた時のような露出の多い服ではなく、桜色のカシュクールワンピースを身に纏い、腰まである小豆色の髪を下ろしている。
着飾っていた時に比べ、質素で大分落ち着いてはいたが、紅晶の美しさは微塵も霞むことはなく、あかねにはむしろ、閉ざされた生活から解放され、どこか活き活きとして見えた。
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