下剋上はサブリミナルに【BL】
通帳を閉じつつ発した洸の言葉に、オレはクラリと目眩を感じた。


だ、か、ら!


「お前とは一緒に暮らさないって、言ってんだろ!」


どう言えば分かってくれる訳!?


「オレは、勇気と同じ大学に行って、一緒に寮生活しようって約束してるんだから!」


その言葉を投げ掛けた瞬間、明らかに洸を取り巻く空気が変わったのが分かった。


先ほどから、どこかいつものこいつらしくない、違和感を感じさせる雰囲気を身に纏っているとは思っていたが、それがより強く、はっきりと感じられたのだ。


「ダメだ」


聞く者を震え上がらせる、低く、ドスの利いた声音で、洸は囁いた。


「そんなの認めない」

「な、何でお前に認めてもらう必要が……」

「こんなはした金で、一体何ができるって言うんだ」


オレの反論を無視し、憎々しげに言葉を発したあと、洸はいきなり手の中の通帳を真っ二つに引き裂いた。


そして乱暴に足元に投げつける。


洸のその暴挙に、オレは頭の中が真っ白になった。


いや、これはあくまでも紙だし、データはきちんと銀行にあるんだし、別にまた再発行してもらえば済む話で、そんな悲観的になる必要はないんだけど。
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