抵抗軍物語 ディスティニーズクロス
しかし、このまま彼をあのままの状態にしておく訳にはいかない。
それは彼が可哀想だから…という理由もあるが、そんな事よりまず何よりも…
「営業妨害ですね。」
「うわ〜…酷くない?それ…」
そんな美都の小言など聞き流し、優奈は食器棚の方へと向かうと、客人専用のティーカップ三つと、ポットを取り出した。
そして次に調味料の並んだ棚の中から、紅茶のティーパックを取り出す。
コポコポ…と紅茶をカップに注ぐ音が、静かなリビングに響いた。
そして三つ全てに注ぎ終えると、優奈はそれをお盆に乗せて、再びリビングに戻る。
するとリビングのテーブルの上にカップを置き、その中の一つを持って彼の方へと近づいた。
優奈はしゃがんで彼の肩を二回程軽く叩いてから、
「…これ、飲んで。」
と、言いカップを差し出す。
彼はゆっくり優奈の方に振り返ると、不思議そうな表情で優奈の顔を見つめていたが、すぐに優奈が差し出したカップを受け取り、紅茶を飲み始めた。
すると、ほぉ〜…と長いため息が口から洩れる。
その表情は、先程より少し明るくなったように見えた。
「落ち着いた?」
彼は首を縦に振る。
「そう、ならよかった。」
優奈は満面の笑みで微笑んだ。
営業スマイルだが。
「旨いな。コレ…。お前が入れたのか?」
それからしばらくすると、今までずっと黙っていた彼が口を開き、優奈に言った。
「まぁね。…ってか、美味しいのは当たり前じゃない。それ、高い紅茶なんだから。」
「え…いいのか?そんなの貰っちまって…」
「お客さん専用のヤツだし。気にしないで。それに…、」
と、優奈は少し間を開けてから、こう続けた。
「…ラベンダーの香りには、鎮静効果があるの。心が落ち着かない時にはピッタリだから。ね?」
その紅茶からは確かに優奈の言う通り、ラベンダーの香りが仄かにしていた。
「何か…すまないな。…色々気ィ使わせちまって…」
「気にしないでいいよ。」
彼の顔から自然と笑みが零れる。
さっきまで、あんなに落ち込んでいたのが嘘のようだ。
「あっ、そういえばまだ名前…」
「あのさぁ…アンタたちねぇ…。いい加減にしなさいよ!!!」
すると今までずっと二人の様子を見ていた美都が、突然バンと机を叩いて立ち上がった。
「えっ?美都さ…」
「いい?私の前で、変なラブコメ繰り広げ…」
「「てません/てねぇ。」」
美都の言葉が終わる前に、二人はほぼ同時に真顔でそう言った。