抵抗軍物語 ディスティニーズクロス
勝手口に着くと、優奈は玄関から黒色の下駄を持ってきて、美都の前に置いた。
「…あ、そうだ。アンタに話しておく事があったんだった。」
すると美都が下駄を履きながら、優奈に静かに言い始める。
「前からずっと言ってるお見合いの…」
「嫌です。」
優奈は笑顔で美都の話が終わる前に答えた。
その笑顔は『またか…』と言わんばかりに引きつっている。
「早くない?私まだ…」
「嫌なものは嫌です…」
そしてその目には…美都に対する呆れや怒りの他に、どこか悲しみの色が映っているように見えた。
すると美都は、そんな目で自分の事を見つめる優奈に、ため息をついてから、
「…あのね、優奈。アンタはさ、世間一般じゃまだ子供なの。学校行ってないし、社会人相当に働いてるけど…」
諭すように言った。
こういう時だけ大人の正論を言うのだから、本当にズルい女だ…と優奈はたまに思う。
それに『学校に行ってない』
その言葉は優奈にとって禁句だ。
それを判っている筈なのに美都はそのまま続ける。
「今はそれでいいかもしれないけど…将来どうするの?アンタ、只でさえ人と関わるの嫌いでしょ?それに『こんな仕事』してたらいつまでたっても幸せになんかなれない。だから、手を打つなら早い内から…」
「美都さん、もう時間ですよ?」
優奈は少し俯き気味に言った。
下唇を噛んで。
五月蝿い。
もう聞きたくない。
やっぱりアンタは何も分かっちゃいないんだ。
そんな言葉ばかりが頭に浮かぶ。
すると美都は、ポンと優奈の頭を軽く撫でてやりながら、
「まぁ、子供のアンタにそんな事言っても、拒否するのは当たり前よね。」
そう言いフッ…と笑ってみせた。
「…じゃあ、お見合いじゃなくて『出会い』だと思ってくれたらいいわ。アンタはやっぱりもっと人と関わった方がいいからさ。…今度の子は私と面識があって、アンタと同い年の子だし。向こうもアンタに会いたがってる。会うだけ会ってやってくれない?」
そう言われてしまうと、さすがに拒否する気にはなれない。
優奈がゆっくり首を縦に降ったのを確認すると、美都はニコッと微笑んでみせ、
「じゃ、行って来ます。」
何事も無かったかのように仕事へ向かっていった。
パタン…と勝手口の扉が閉まる音が、優奈にはどこか虚しく聞こえた。
美都は遊廓で…いや、遊廓をイメージしたキャバクラで、新手のキャバ嬢をしている。
実は燐塊町は、昔たくさんの遊廓が軒を連ねる桃源郷で、その名残もあってか今でも町の路地裏はキャバクラやホステスなどの水商売の店が軒を連ねているのだ。