絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 言いながら、彼女は海の向こうを見ている。次にここに彼氏を連れてこようと考えているのだろうか。
 しばらく沈黙が続いた。
 彼女は足で波と戯れたり、遠くを見つめたりの繰り返しで、こちらを見ようともしない。
 また、こちらも今この瞬間、彼女に何か伝えることよりも、その姿をじっと見ていたかったので、黙っていた。
「良かったね、事務所建てて」
 不意に言い出した一言。だが、こちらを見てはいない。
 彼女との距離は3メートルほど離れていたので、波の音に会話がかき消されないよう、少しだけ近づく。
「うん……順調。忙しすぎるくらい」
 この静けさが、妙に彼女への感情を高めてしまう。
「今度、新曲出すんだ……もうレコーディングも終わってる」
「あ、そうなの」
「というか、もうすぐ発売なんだけど……。その曲、今の自分の気持ちを正直に書いた曲なんだ」
「ふーん、楽しみにしてるね」
 それにはあまり興味がないのか、彼女は視線を落としたまま。足元の波の感触を確かめるように、足を浮かせたり、前後に動かしたりしただけだった。
「うん……。僕、愛ちゃんと一時でも一緒にいられて、本当に良かった」
 彼女はようやくこちらをまじまじと見た。
「……、そうだね……。良かったね……色々あったね……この3年間」
「うん……。色々あった。唯一変わらないのはユーリくらいだ」
「そうだよね(笑)。私も、レイジさんに誘われて一緒に住んで、本当に良かったと思ってるよ……本当によかった。
 私、思ったんだ……。だって、恋人とかってやっぱり分かり合えないと結局別れて…一緒にいられなくなったりするじゃない? それとか、結婚して家族になっても、やっぱり離婚ってこともあるじゃない?
 だから、私は、レイジさんと友達という方向の道から外れなくて、本当に良かったと思ってるんだよ。
 傷つけたくないし、大切にしたいし。
 私、ダメなの。恋人同士になると、やっぱりどうしても傷つけたりしちゃうの」
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