境界線
04

誰もいないオフィスで、私は一人仕事をしていた。新製品のプレゼンは明日に迫っていたからだ。馬鹿な後輩がミスさえしなければ、こんな目にあわなかったのは言うまでもない。

「…高橋め」

憎き後輩の名を呟きながら、ひたすらプレゼンの原稿を書いていた。もうコーヒーを入れてくれる後輩もいない。時計を見るとすでに十一時だった。

「…終電なくなるかも」

独り言がつい多くなるのも寂しい女の特徴だ。来るはずのない反応を求めて呟く。私は愚かな自分を鼻で笑った。

「あともうちょいだな」

どうでもいいことを考えながら作業していると意外にもはやく終えられそうだった。時刻はまだ十一時半。終電には間に合う。

カタカタとキーボードを叩いていると、その音に混じる機械音が聞こえた。

耳を澄ますとそれは隣の部屋から聞こえているようだった。

「…みんな帰ったはずなんだけどな」

もしや幽霊、なんて馬鹿な考えを振り払い意を決して立ち上がった。

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