境界線
05

「ええー!」

騒がしい居酒屋にマキの驚嘆の声が響く。私はそれを制するように左手をマキにかざした。

「だって、あの高橋くんと…先輩が…」
「その先は禁句。私後悔してるのよ」

マキは信じられない、とでも言うようにビールをがぶ飲みした。端正な顔立ちと大きなグラスが不釣り合いだ。

「でも、ぶっちゃけ、彼下手そうです」
「キス?」
「キスもセックスもです」

私は飲んでいた日本酒を吹き出しそうになった。酒は人を変えるとはこのことだ。
穏やかにコーヒーを手渡してくれるマキは一体どこにいったのだろうか。

「いや、それがね」
「うまいんですか!?」
「いやいやいや」

すでに酔った様子のマキを再び制御する。



「高橋。何で私家にあげたの?」
「え。だってタクシー代…」
「私がそんなにお金に困ってるように見えるの?」

高橋の家につく頃には私はすでに冷静になっていた。それによって立場も元通り、私が会話の流れを作るかたちに変わっていた。

「本当は部長にタクシー代を渡したかったんです。部長の残業、俺のせいなんで」

高橋はどうやら自覚していたようだった。私はしょんぼりした高橋から鍵を奪い、玄関を開けた。

「でも俺今すごいお金なくて、それでこれしか方法ないなと思いまして」

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