境界線
01

大手化粧品会社に就職して、もう十年がたっていた。気がつけば三十二歳。言動の一つ一つに年齢を痛感させられる今日この頃。
入社した頃から私生活はそっちのけで仕事に励んできた。もちろん彼氏なんていない。私が最も嫌いだった、独身仕事人間の称号を獲得してしまいつつある。
前部長の寿退社を期に部長に昇進した。しかし全く満たされた気分になれならった。

「林部長、会議の資料です」
「ありがとう」

毎日会社のおじさん幹部に気を使って、社交辞令を撒き散らして、一日が終わる。

「マキちゃん。コーヒーもらえる?」
「はい!今すぐお持ちします!」

従順な部下に囲まれた生活。
これも悪くないと自分に言い聞かせながらも、やはり満たされてはいなかった。

「林部長。午後に広告のチェックお願いします」
「はいはい。じゃあ会議室の3で。四時からね」
「わかりました。宣伝部へ伝えておきます」

だが、満たされていないと嘆いている暇もない。やることは次から次へと降ってくる。

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