境界線

最近は、寂しいとも感じなくなった。それは諦めにもにた感情が作用しているせいかもしれない。

「部長。コーヒーです」
「ありがとう」

細い指がカップを差し出した。大きな目がわたしを伺うように覗いていた。

「部長、大丈夫ですか?」
「う、うん。何で?」
「お元気がないように感じます」

心配そうな顔をするのは新入社員のマキだ。オフィスの男性陣がこぞって美人だと囃し立てる、ある意味期待の新人。

「マキちゃんは可愛いだけじゃなくて、気配りもできるのね」

彼氏は幸せでしょ、と付け加えた。口にしながら自分のいやらしやに引いた。最低な発言だ。まるで嫉妬しているかのようだ。

十歳も離れた後輩を嫉んでどうする。
つくづく私は私が嫌いになる。

「わたし、お元気な部長の方が好きです。だからいつも通りビシバシやってください」

思わず眼鏡がずれた。天使のような笑顔でマキはそれを直してくれた。私は唖然としたまま、仕事に戻るマキを目で追いかけた。

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