境界線
ビシバシ、ね。
口にださずに呟いた。いつのまにそんなキャラクターに確定されたのだろうか。学生時代はもっと大人しくて、むしろ他人に従っている方だった。
時間の流れを恨んだ。
人生をやり直したかった。
だがそんな暇はもちろんなかった。
「部長」
「はい。今日は何をしたの」
問題児が一人。いや、一匹。また私を嫌なキャラクターへと仕上げる後輩が登場してしまったのだ。
「プレゼンの資料なんですが」
「が?」
こめかみで神経がぴくりと動いたのがわかった。
「コピー機につまってしまって」
「て?」
「い、いなくなりました」
反射的に机を平手打ちしていた。オフィスにいた社員が一斉に振り向いた。高橋ナオヤは体を強張らせながら怯える子犬のように後ずさりした。
「すいませんでした!」
風をきる音がしそうな勢いで頭を下げた高橋の横に立ち、シャツの襟を引っ張りあげた。
高橋は視線を泳がせ、再度詫びた。
「捜索、しよっか」
「はい」
恐い女。
自分でもよくわかってる。でももうこんな接し方でしか他人と付き合えないようになっていた。
私は大きくため息をついたあと、高橋をコピー室へと引きずっていった。