境界線
「あいつの借金の今月分の支払い。あんたが体で払ってくれんなら、チャラにしてやるよ」
…借金?
…体で払う?
頭の中がぐるぐりして、現実を飲み込めないでいた。
確かに高橋は金欠だとは言っていたが、まさかそれは借金の話だったのだろうか。
冷静になるため、一度大きく深呼吸した。男の顔が妙に近い。
「なぁ、どうだ?可愛い後輩のためだろ?」
私は何も言い返せなかった。
もちろん体で払うなどという条件を飲むつもりはない。飲めるわけがない。だが、ここで思いっきり否定すると、高橋はどうなるのだろう。
何も言えないまま硬直していると、思わぬ救世主が後ろから駆け付けた。
「騒がしいんで警察呼びましたよ」
聞き慣れた男の声だった。地面に倒れ込んでいた高橋も顔を上げる。
「取り立てにも許容範囲があるでしょ」
振り向かなくてもわかった。
この声はリョウスケだ。
男は舌打ちをして走り去った。